修平の視察報告
台湾の観光戦略、県・市合併の効果検証、「英語村」などを行政調査
平成29年4月24日(月)~27日(木)
-府議会日華親善議員連盟視察-
●はじめに
大阪府議会日華親善議員連盟は1985年に発足して以来、日本と台湾のさらなる友好関係の発展と経済をはじめ各分野に関する研究を行い、両国の関係強化を図ることを目的に活動しています。
現地では台湾政府の交通部観光局(日本の国交省観光庁)や外交部(日本の外務省)との意見交換会に始まり、台北市政府と台北市議会、台南市政府と台南市議会、高雄市政府と高雄市議会、高雄港、高雄市立過碑国民小学校を訪問しました。
今回の視察では、すべての訪問先で“熱烈歓迎”を受け、あらためて台湾という国が最も友好的な国の一つであることを強く実感しました。
各市議会との意見交換会では、日本語の堪能な議員が多く、日本との交流を重要視していることが伺えました。
また、台湾では立候補者(当選者)のうち4人に一人の「女性枠」が設けられており、各市議会において概ね半数が女性で、訪問先の高雄市の市長や各市議会の議長は全員女性でした。
なお、この制度は考え方によれば、性別による差別化にもつながる恐れがあり、わが国においては様々な意見があると思われますが、視察先で説明を行う当局の幹部職員も女性が多く、アジアにおける女性の社会進出が最も進んでいる国と言えます。
●台湾政府の交通部観光局による取り組み
外国人観光客の約80%が台北に一極集中している状況を鑑み、観光のサスティナビリティを推進する観点から、台中、台南、高雄など地方への分散化が図られています。その取り組みを推進するために、定期便のない地方発着地へのチャーター便の運行に対し誘致助成が行われたり、50人以上の旅行者団体に対し歓迎アトラクションや記念品を無償提供するなど、様々なプログラムが用意されています。
そうした制度が活用されたことで、現在では外国人観光客の30~40%が台北以外の地域へ分散しています。
また、台湾観光イメージキャラクターに女優の長澤まさみさんが起用されるなど、わが国への戦略的な観光誘致プロモーションも積極的に行われています。10年前の訪台日本人の女性比率は20%台でしたが、OLなどをターゲットにしたプローモーションが功を奏し、現在では約半数に達しています。
昨年度の訪日台湾人観光客は約430万人、訪台日本人観光客は約180万人で、それぞれ年々増加しています。
そして、今年は愛媛県と香川県との観光サミットが開催される予定で、大阪府においても、地方自治体レベルでの連携強化の必要性を感じました。
●台南、高雄の県・市合併の効果
台湾では2009年の地方制度法改正に伴い、台南市と台南県(台南市の郊外地域)が合併し、高雄市と高雄県(高雄市の郊外地域)が合併しました。
県・市合併が進められた背景には、地域の人口増加や経済発展への期待や、合併により「直轄市」に昇格することで、中央政府からの交付金が大幅に増額されるインセンティブがありました。
一方、地方議員数の削減を伴うことから、政治的に厳しい局面もありましたが、議会の賛成多数により合併が実現しました(大阪都構想のような住民投票はなし)。
「直轄市」となった台南市政府の年間予算は約800億台湾元(約3,000億円)で、合併前の県・市合計額とほぼ変動はありませんが、新たに中央政府からの交付金が増額されたことで、バス路線の拡充やLRT(次世代型路面電車システム)が整備されるなど、スケールメリットを活かした取り組みが行われています。
そして、合併に伴うサービスの選択と集中により、市民意識は概ね良好とのことで、「むしろ国民全体の改革意識が醸成されたことも大きなメリットだった」という呉 宗栄(ゴ ソウエイ)副市長の言葉が大変印象的でした。
また、訪問先の高雄市教育局が置かれている「鳳山行政中心」は、かつての高雄県の役所を再利用した施設で、他にも文化センターなどの様々な施設を一括管理し再利用されることで、コスト縮減が図られています。
●高雄港の港湾戦略
高雄港は台湾政府による30年間の年次計画と戦略に基づき、運営されている台湾国内最大の基幹港です。現在、年間約1,000万TEU(世界標準の20フィートコンテナの数量)以上を扱い、世界第12位の取扱量を誇っています。10年前までは大阪港と同規模でしたが、現在は約5倍の規模となっており、将来的には世界のハブ港をめざしています。
また、2012年までは港湾の行政組織が4つに分かれていましたが、一元化されたことにより、経営効率を高めることに成功しました。
現在、大阪府が管理する堺泉北港、阪南港と大阪市が管理する大阪港の一元化をめざしています。これにより、国際コンテナ航路と内航航路を一環したシステムとして事業者に提案できるなど、一体となった港湾計画の策定とポートセールスが可能になります。
また、広域的な港湾防災や海岸防災も可能となり、府民の安全・安心の向上にも寄与するものと考えています。
さらに、神戸港や尼崎西宮芦屋港も含め、阪神港を「スーパー中枢港湾」として国から指定されており、国際競争力の強化やさらなる利便性の向上と防災機能の向上をめざしています。
●台湾の小学校の英語教育と「英語村」
台湾の小学校の英語教育は、2001年に新たな小・中一貫教育要綱が定められたことにより、小学5年生から英語が必修化されました。
また、視察先の高雄市立過碑国民小学校に併設されいる「英語村」では、外国人講師の授業により、コミュニケーションのすべて英語で行われ、まさに海外留学と同じ環境でまなぶことができます。なお、施設の初期投資費用は約600万台湾元(約2,200万円)。
高雄市内には同様の施設が6箇所あり、それぞれ学ぶ分野が分かれています。同小学校では「芸術」と「生活」をテーマ化した授業を週3回受講でき、当日はニュース番組の制作を通じて、アナウンサーや天気レポーター、カメラクルーに扮した生徒たちが楽しそうに英会話を行っていました。
最大の課題は高額な外国人講師の給料と人材確保で、限られた授業時間でも80~120万台湾元(約300~450万円)が支払われています。また、定期的なリスニング、スピーキング、筆記試験を行うことで一人ひとりの習熟度を調査しています。
視察当日はPTAの楊 雅雁(ヨウ ガガン)会長も同席され、「家庭でも英語が飛び交い、親も英語での会話を心掛けている。」とのことで、ネイティブスピーカーによる英語教育は子どもたちに大きな効果をもたらしていることが分かりました。
●わが国の小学校の英語教育と「英語村」
一方、わが国における小学校の英語教育は、平成23年(2011年)から小学校5年生から「必修化」され、授業内容は歌やゲームなどを通じて、英語を「楽しむ・親しむ」といったものです。
今後、平成32年(2025年)には「必修化」を3年生に前倒しし、5年生からは「教科」に格上げされる予定で、来年度から先行実施が可能となります。
その内容は中学年では週1回の「聞く・話す」授業、高学年では概ね週2回の「聞く・話す・読む・書く」の4技能を育成するものです。
また、大阪府では現在、独自に小学校1年生からDVD教材を活用し、1回15分程度の学習により、早い段階から英語の音や文字に触れることで、中学生での苦手意識を取り除く取り組みが行われています。
国内の「英語村」については、一昨年に吹田市にあるエキスポシティ内に民間の教育施設がオープンしたほか、東京都では平成30年度から「公設民営型」の施設を開業する予定です。
府内でも同様の施設が開業されることに期待が高まる中、宿泊施設も兼ね備えた「英語村」が整備されれば、高い学費を支払って欧米圏へ海外留学をしなくても同じ効果が期待できます。
かねてより、天野小学校や高向小学校で1年生から英語教育が実施されている英語先進市の河内長野市において、地域活性化のメルクマールになり得る「英語村」の誘致や「英語特区」の実現に向け、今後、積極的に提案を行ってまいります。